護国寺に夏目漱石や三好達治をしのぶ

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本日は、五代将軍・徳川綱吉の母・桂昌院ゆかりの、東京都文京区の護国寺を歩きます。

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護国寺へ

営団地下鉄有楽町線 護国寺駅で降りて、
すぐ目の前が護国寺の入り口です。

護国寺は真言宗豊山派(ぶざんは)の寺で、
天和元年(1681年)五代将軍徳川綱吉の生母・
桂昌院の発願によって建立されました。

本尊は如意輪観音。

江戸三十三箇所観音霊場の第13番目の札所です。

さっそく仁王門をくぐります。

仁王門正面の両脇には金剛力士像(阿形像、吽形像)、
裏面両脇には増上天像・広目天像が立っています。
どれも強そうでカッコいいです。

護国寺の山門の朱(あか)の丸柱
強きものこそ美しくあれ (窪田空穂 くぼたうつぼ)

夏目漱石『夢十夜』

護国寺を扱った文学作品で有名なものに
夏目漱石の『夢十夜』があります。
「こんな夢をみた」という印象的な書き出しはよく知られていますね。
教科書に載っていたという方も多いことでしょう。

夢の内容を書くという設定で、10話オムニバス形式で、
幻想的なタッチで描いたものです。

その『夢十夜』の第六夜が護国寺の話です。

運慶が護国寺の山門で
仁王を彫っているというので行ってみると、
すでに人だかりになっている。

よくまあ、ああうまく掘るもんですねえ。
なにあれは、木の中にあの形が埋まっているのを
掘り出しているだけだ。だからカンタンだ。

などと見物人が話しているのを聞いて、主人公が
へえ、そういうものか。じゃあ俺にもできるはずだ。
やってみよう…

そんな話です。

『夢十夜』はどの話も短く、しっかりオチもついており、
台詞と地の文のバランスがよいので、朗読の台本として
とても向いています。

実際、朗読教室などでテキストとして
使われていることも多いようです。

漱石は熱心な落語愛好家だっただけあり、
その文章は書き言葉というより語りのリズムがあり、
声に出した時とても気持ちがいいのです。

ぜひ一度、声に出して漱石の文体の気持ちよさに
触れてみてください。

仁王門をくぐると、修学旅行のバスが停まっていて
高校生がたくさん歩き回っていました。活気があります。

黄色くなりかけの銀杏の梢。太くつややかな赤松の幹。
サツキやツツジを左右に見ながら石段を登っていくと、
その上にあるのが不老門です。

平安京大内裏の豊楽院(ぶらくいん)の北門を不老門といいますので、
それを意識しているのだと思います。

護国寺大仏

不老門をくぐった先が境内です。境内正面が本堂です。

境内右手には大仏さまが鎮座ましましています。

実によい表情をしておられます。

キュッと結ばれた口元。
ふくよかな顔立ち。

これからギャグの一発でも繰り出しそうな…
じーっと見ていると、こっちまで
同じ表情になっちゃいそうです。

しばらく大仏さまを拝んだ後、本堂に入ります。

本堂内部は写真撮影禁止ですが、毘沙門天像や観音菩薩像が
おごそかに立ち並び、窓から明るくさしこむ午後の日が、
畳の上に影を落としているのが印象的でした。

数々の仏像にまじって役小角像がありました。

どこにでもいますね、この人は…。

先日、京都の三十三間堂で役小角像を見たばかり
だったので、「またあんたですか」と苦笑してしまいました。

その他、境内には猫がとても多いです。

どこを見ても、猫がしなしなと歩いており、また昼寝しています。
のんびりした猫の姿に癒されたい。観世音菩薩や毘沙門天とともに、
猫たちからもパワーを受けたい。

そんな方に、護国寺はおすすめです。

墓場も、いいです。

何がいいか?

墓の向うの緑の切れ間からのぞく
サンシャイン60。

これですよ。

学生の頃はサンシャイン60の空中庭園で、
コンビニで買った酒を広げて、よく酒を飲んだなあ。
学生時代の友人たちは、今どうしているだろうか。
そんなことを、しみじみ思いながらサンシャイン60をも
ながめやると、なんとも懐かしく、侘しい気持ちが
こみ上げてきました。

しかも墓の向うにサンシャイン60というこの構図。
さまざまな感慨が、こみ上げました。

三条実美、山形有朋、大隈重信など
幕末・明治の遺臣たちの墓も多いです。
歴史好きの方には歩きがいがある寺だと思います。

三好達治の「甃のうへ」

最後に、三善達治の詩「甃のうへ」を朗読します。
この詩は特に護国寺を歌っているわけではないのですが、
雰囲気が護国寺にぴったりです。

護国寺散策の際は、ぜひ思い出してほしい詩です。

甃のうへ  三好達治

あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音(あしおと)空にながれ
をりふしに瞳をあげて
翳(かげ)りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍(いらか)みどりにうるほひ
廂(ひさし)々に
風鐸(ふうたく)のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃(いし)のうへ

真言宗豊山派  大本山  護国寺。

歴史好きの方には、さまざまに見るべき所があり 特におすすめです。

【所在地】東京都文京区大塚5-40-1
【お問合せ先】03-3941-0764
【交通のご案内】

東京メトロ有楽町線「護国寺」駅より徒歩1分
都バス都02乙、上58「護国寺正門前」より徒歩1分

本日も左大臣光永がお話しました。
ありがとうございます。ありがとうございました。

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