常世国の木の実と垂仁天皇

こんにちは。左大臣光永です。桜もはらほらと舞い散る時期ですが、今年の桜は満喫されましたか?散る桜を惜しみ行く春を惜しむこの季節、いかがお過ごしでしょうか?

私は先日、奈良の尼ヶ辻を散策してきました。

尼ヶ辻はどこかというと、JR奈良駅から少し歩いて近鉄奈良線に乗り、平城宮跡を北に見ながら西へ向かい、大和西大寺(やまとさいだいじ)駅で今度は近鉄橿原(かしはら)線に乗り換え、一つ目の駅が尼ヶ辻です。



尼ヶ辻駅
尼ヶ辻駅

鑑真和尚の唐招提寺がもっとも有名ですが、今回はあえて唐招提寺には行かず(正月に行ったので…)、その裏手にある垂仁天皇陵に向かいました。

垂仁天皇陵
垂仁天皇陵



不老不死の薬や飲料にまつわる伝説は、いろいろと伝わっています。

秦の始皇帝が海の向うの蓬莱山に徐福を遣わした話、インド神話に出てくる霊薬アムリタの話、中世ヨーロッパの錬金術の霊薬エリクサーなど。

そしてわが国にも不老不死を求めた帝王がいたことをご存知でしょうか?

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常世の国の木の実を求めて

第11代垂仁天皇は『古事記』や『日本書紀』の記述によれば、配下の多遅摩毛理(タヂマモリ)という者を海の向うの常世の国に遣わしました。

「タヂマモリよ、海の向うの常世の国には、昼といわず、夜といわず、常に光を放つ非時香菓(トキジクノカグノコノミ)があるという。行って、取ってまいれ」

「ははっ」

タヂマモリは船に乗りこみ、八重の潮路をかきわけて、幾多の苦難の末に常世の国に辿りつきました。見ると、なるほど昼といわず、夜といわず、常に光を放つ木の実がなっているではありませんか。

「これがトキジクノカグノコノミか…なんとも美しい。まるで夢のようだ」

もぎっ、もぎっ、もぎっ、

タヂマモリは葉がついたまま折り取った枝や、葉が落ちて実だけになったのを折り取った枝を八組持って船に乗り、ふたたび八重の潮路をかきわけて、倭の国に戻ってきます。

ようやく戻れた。無事にトキジクノカグノコノミを持ち帰れた。わが君は、どんなにかお喜びくださるだろうと、期待に胸をふくらませて。

しかし、タヂマモリが戻った時、垂仁天皇はすでにお隠れになっていました。

「わが君、トキジクノカグノコノミをとってきましたぞーッ」

タヂマモリは、持ち帰ってきた葉がついたまま折り取った枝や、葉が落ちて実だけになったのを折り取った枝を二組に分け、一組を皇后に献上し、一組を天皇の陵の戸口に置いて、叫び泣いて、ついにその場で死んでしまいました。トキジクノカグノコノミが、後の橘だという話です。

垂仁天皇陵へ

というわけで、

奈良県尼辻町にある巨大な前方後円墳が、垂仁天皇陵です。

バス通りから住宅街に入って、しばらく行くと、家々の合間にヌウーーと巨大な影があらわれます。「ぬおっ」…思わず息を飲みました。音がすごいです。ギャーギャー、チピチピ、キッキッキ…うっそうと茂る原生林の中から、いろいろな鳥・獣の声が響いてきます。

垂仁天皇陵
垂仁天皇陵

よく種類のわからない、恐竜っぽい鳥がスーー、スーーと古墳のまわりを飛び交って、いや、ここは何時代ですか。

今にもティラノザウルスがあの向うから、ヌウーと首を出しそうな。見ていると足がすくんで、ワクワクします。古墳は、大きくて、いいなあ。一週間くらい泊まって、毎日な~んにもしないで、朝から晩まで古墳だけを観察していたいと、しみじみ思いました。

古墳の横は、ごく普通の田園風景が広がり、農作業をしているおばちゃんたちの姿がそこかしこに見えます。民家も多いです。

毎朝、窓を開けると真っ先にこんもり盛り上がった古墳が目に入ってくるというのは、どういう生活でしょうか。夜は、古墳の影を見ながら酒盛りするのも、気分よさそうです。

で、壕の中には垂仁天皇に命じられて非時香菓(トキジクノカグノコノミ)を求めて常世の国へ旅立った、タヂマモリの墓といわれる小島が浮かんでいます。さまざまな角度から、写真を撮ってきました。至福の時とは、このことです!!

タヂマモリの墓?
タヂマモリの墓?

タヂマモリの墓?
タヂマモリの墓?

タヂマモリの墓?
タヂマモリの墓?

しかし…こうした歴史がありながら、説明不足なのが残念です。案内板など何もありません。

垂仁天皇はどんな天皇か、あの小島は何なのか、地元の方でも知らない方は多いんじゃないでしょうか。せめて一枚案内板が立っていれば、いいんですが…。

多遅摩毛理(たぢまもり)

又、天皇(すめらみこと)、三宅連(みやけのむらじ)等(ら)が祖(おや)、名は多遅摩毛理(たぢまもり)を以て、常世国(とこよのくに)に遣して、ときじくのかくの木実(このみ)を採りて、縵八縵(かげやかげ)・矛八矛(ほこやほこ)を将(も)ち来る間に、天皇(すめらみこと)、既に崩(さ)りましき。

爾(しか)くして、多遅摩毛理(たぢまもり)、縵四縵(かげよかげ)・矛四矛(ほこよほこ)を分けて、大后(おおきさき)に献(たてまつ)り、縵四縵(かげよかげ)・矛四矛(ほこよほこ)を以て、天皇(すめらみこと)の御墓(みはか)の戸に献り置きて、其の木実を擎(ささ)げて、叫び哭(な)きて白(もー)さく、

「常世国(とこよのくに)のときじくのかくの木実を持ちて上(のぼ)りて侍(はべ)り」とまをして、遂に叫び哭(な)きて死にき。其のときじくのかくの木実は、是(これ)今の橘ぞ。

また、垂仁天皇は「埴輪」をはじめた天皇としても知られます。言い伝えによると、それまで天皇がお隠れになると、生きた人間や馬を埋めていたと。

それはあまりに残酷であるということで、垂仁天皇の代に生きた人や馬のかわりに陶器を埋めるようになった、これが埴輪のはじまりだと伝えられています。

奈良で唐招提寺に立ち寄った際には、ぜひもう少し足を伸ばして、垂仁天皇陵までも足を伸ばしてみてください。



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