堀川と西行法師

こんにちは。左大臣光永です。今年もあと20日を切りましたね。
町を歩く人の足取りもあわただしい感じですが、
いかがお過ごしでしょうか?

さて、
先日発売しました新商品
「百人一首 全首・全歌人 徹底解説」…
https://sirdaizine.com/CD/Ogura100info.html

すでにたくさんのご注文をいただき、ありがとうございます。
現在、誤字・脱字・言い間違いなどの最終チェックを
行っておりますので、発送は金曜日以降となります。
少しでも質の高いものをお手元におとどけするため、
ご了承ください。


……さて、この商品と、そして季節も年末年始ですから、
しばらく百人一首の話題を重点的に語っていきます。

▼音声が再生されます▼

     
     

http://roudokus.com/mp3/Horikawa.mp3


百人一首の面白さの一つに、関連する歌やエピソードを
たどっていく面白さがあります。
百の歌をおぼえて、解釈して、はい、お終いにはならないです。

むしろ百人一首の歌を出発点として、じゃあこの作者は
ほかにどんな歌を詠んでいるのか?どんなエピソードがあるのか…

興味にまかせて関連する歌やエピソードをたどっていくうちに、
百人一首の歌だけではいまいちぼんやりしていた
歌人の人物像が、人生が、じわ〜〜っと浮かび上がってくる。
100の人生が、そこに見えてくる。

これです。これが、面白いんです。
百人一首の、やめられなくなる所以です。


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黒髪の乱れを歌った妖艶な歌
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平安時代後期(12世紀中ごろ)、

鳥羽上皇は三大の天皇の御世にわたって院政を行い、
絶対権力者(治天の君)として君臨していました。


鳥羽上皇の后待賢門院のもとには、多くの才能ある女房が集いました。
また後に西行法師として知られる
佐藤義清(さとうのりきよ)も出入りし、
文芸サロンのような賑わいをみせていました。

中にも堀川は、歌人として名を馳せ、西行法師とも
親しい関係にあったようです。


ながからむ心も知らず黒髪の
	乱れてけさはものをこそ思へ



【意味】
貴方のお気持ちが長続きするかどうか、私にはわかりません。
一夜を過ごしてお別れした朝、黒髪が乱れているように
私の思いもとても乱れております。

堀川のこの歌は、百人一首の中でも
特に艶っぽい感じがする歌です。

女の黒髪。美しいような、ちょっとゾクッとするような怖さもあり、
なんとも味わい深いです。


与謝野晶子は、おそらくこの堀川の歌に影響を受けてた思われる短歌を
処女歌集『みだれ髪』に詠んでいます。

黒髪の千すじの髪のみだれ髪
	かつおもひみだれおもひみだるる



待賢門院のサロンには日々、多くの文人墨客の出入りがあり
たいへんな賑わいでしたが…それも長く続きませんでした。

鳥羽上皇のご寵愛は、
やがて側室である美福門院のほうに移っていきました。
すると待賢門院のサロンは日に日にすたれていきます。

また近衛天皇即位に前後して待賢門院が美福門院を
呪詛したという噂が立ちます。


こんなこともあり、心を痛めたのか待賢門院は
康治元年(1142年)出家して、
三年後、帰らぬ人となりました。

待賢門院にお仕えしていた堀川は、主人が出家すると、その後を追って
出家しました。

出家した堀川は仁和寺のあたりにすまっていたようですが…


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西行との贈答歌
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月の明るい晩、西行法師が仁和寺の前を通りかかります。


「ああ…いい月だ。堀川殿はどうしておられよう。
月の光に誘われて、歌など詠んでおられるやもしれぬなあ。
宮中で歌合せをしたこともなつかしい…」


西行は前々から、堀川を訪ねていく約束をしていましたが、
忙しさに先延ばしになっていました。


このような月の晩こそ、昔を語り合うには最高のはずですが…


「いやしかし…今宵はやめておこう」


どうしたわけか、西行は仁和寺の前を素通りしていきました。


「えっ、西行さまが!」


後日、堀川は人の噂に、
西行法師が仁和寺のそばを通ったことを知りました。


(西行さま…近くまで来ているのに私を訪ねてくださらないんなんて、
つれないですわ。そうだ。ちょっとイジメてやりましょう)


堀川は西行法師に歌を贈ります。


西へ行くしるべと頼む月影の
	そらだのめこそ甲斐なかりけり


西行法師さまのことを、そのお名前の通り、
【西】方浄土へ【行】くための道しるべと頼みにしておりましたのに、
私はふられてしまったんですね。甲斐の無いことです。


「ほほう、そう来たか」


アゴひげを撫でくりまわしながら、ほくそ笑む西行。
こう返しました。


さし入らで雲路をよぎし月かげは
待たぬ心ぞ空に見えける


私があなたのお住まいを訪ねないで通り過ぎたのは、
あなたが私のことを待っていてはくれてはいないと思えたからですよ。


昨年の大河ドラマ『平清盛』では、このエピソードをふまえ、
西行法師と堀川が艶っぽい感じに描かれていました。

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法金剛院に主君をしのぶ
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久安元年(1145)8月22日。京都洛西・法金剛院(ほうこんごういん)にて
尼になっていた待賢門院が崩御しました。
その翌年の6月、堀川は、亡き主君を慕い、法金剛院を訪れます。

「ああ…!」

思わず声をもらす堀川。
何もかも、変わり果てていました。

庭には雑草が生い茂り、木々の梢は伸び放題。
池の蓮の葉も破れに破れ、
そこに往時の面影はありませんでした。

カナカナカナカナ…

ただひぐらしの声だけが響いています。

(あの方はもういらっしゃらない…)

呆然と立ちすくむ堀川。

宮中での華やかだった日々、
そして出家後も、たびたび懇意にしてくださったこと。

亡き主君 待賢門院の思い出が次々と押し寄せ、
涙がこみ上げます。


しかし、共に泣いてくれる者は誰もなく、
ただ蜩の声だけが庭に響いていました。


君こふるなげきのしげき山里は
	ただ日ぐらしぞともになきける


(わが君はもういらっしゃらない。それを思うと、嘆きしか出てこない。
この山里に、私とともにないてくれるのは、蜩だけだ)


このように、百人一首の歌を出発点に、

西行法師との歌のやり取りや、
亡き主君をしのんだ歌など…

歌やエピソードをたぐりよせていくことで、
ぼんやりと見えたきたのではないでしょうか?

堀川という女性の、人物が。人生が。

これです。これが、面白いんです。
百人一首の、やめられなくなる所以です。

というわけで、

「百人一首 全首・全歌人 徹底解説」
https://sirdaizine.com/CD/Ogura100info.html

発売中です。無料のサンプル音声も配信中ですので、
ぜひ聴きにいらしてください。

本日も左大臣光永がお話いたしました。
ありがとうございます。ありがとうございました。

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