
こんにちは。左大臣光永です。
8月に入り、いよいよ暑くなってきますね。
熱中症には気をつけて水分・塩分をとりましょう。
さてあなたは、人前で話す機会がおありでしょうか?
たとえば会社でプレゼンテーションをする。
結婚式でスピーチを頼まれる。
あるいはお子さんやお孫さんに絵本を読んであげる
ことでもいいです。
もしそういう機会があれば、
今日の話はとてもあなたの役に立ちます。
人に物事を伝える上で大切な
バカラン、バカラン精神について
今日はお話します。
「バカラン、バカラン精神…なんだそりゃ?」
そう思われるのは当然です。
私が作った言葉ですから。
私は昨年、半年間TAMA市民大学TCCというところで
『平家物語』の講演をしました。
大河ドラマ『平清盛』にあわせての企画でした。
TAMA市民大学での講義
大好きな平家物語の魅力を、
人に語れるのは大喜びでしたが、
一つ、非常に困ったことがありました。
それは……
…
春の祇園〜保元の乱 白河北殿跡の近く
繁栄を極める平家一門。
「平家にあらずは人にあらず」とまでの
繁栄ぶり。
その繁栄のきっかけとなったのが、
1156年 保元の乱における、
平清盛の勝利でした。
なので、平家一門がなぜ繁栄したのかを語るために、
まず『平家物語』本編よりずっと昔の出来事である
保元の乱を説明する必要があるわけですが…
…………
……
…

鳥羽上皇と崇徳天皇

摂関家の内部抗争

保元の乱 関係図
日本史の授業でこの「保元の乱 関係図」を
覚えさせられて頭がグチャグチャになったという方も
多いと思います。
保元の乱の複雑怪奇な人間関係を、
どうわかりやすく、興味を持ってもらえるよう、
来場者の方に説明するか?
私はすごく、悩みました。
昔日本史の授業で習ったときは生意気にも
「わかりづらい説明だな〜」などと思っていましたが、
いざ自分が説明するとなると、難しいものです。
複雑な出来事をいかに
わかりやすく、興味が持てるように説明するか…
とても難しいところです。
チマチマ説明するよりも、なにかこう、
「保元の乱」の本質のような
部分をガシッと掴まえよう。
そしてその一点だけを覚えて帰ってもらおうと
考えました。
そこで私は保元の乱について書かれた書籍を
何十冊も読みあさりました。
しかし学者の先生の書く文章の多くは難しすぎて、
「声に出して語る」ことには、まったく向きません。
そもそも声はその場その場で消えていくものですから、
あまり入り組んだ内容を伝えるには向いていません。
単純な、一つのことを、今日はこれだけは覚えて帰ってください!
これ、一つだけです!…そういうのが欲しいんです。
「もしかしたらえらい先生の書いた本よりも、
子供向けのやさしい本のほうが参考になるんじゃないか?」
ふとこう思って、児童書のコーナーで子供向けに書かれた
歴史の本を開いてみました。すると、
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「バカラン、バカラン、バカラン、バカラン、
早朝の京都の町を、何百騎という軍馬の群れが
通りすぎていきます。
「な、なにごとだ!」
「戦がはじまるのか!?」
庶民は何が起こっているかわからず、
ただおびえるばかりでした。
この日1156年(保元元年)7月11日早朝…
平清盛率いる300騎は京都の高松殿を出発し東へ向かいます。
めざすは鴨川を越えた先にある、白河北殿。
敵・崇徳上皇方のたてこもる本拠地です…」
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
「これだッ!!」
私は思わず、叫びました。図書館なので叫べないですが、
心の内では叫んだんです!
この文章は、「保元の乱」の本質を
ガッシリ捉えていると思いました。
(ただし上の文章は私の記憶による再構成で、
正確な引用ではないです)
情景が伝わってきます。場面がとても具体的で、
声を出して伝えるのに向いています。
この人とこの人が親戚同士で、
こうこう手を結んで…そんな話よりも、まずは!
バカラン、バカラン、バカラン、バカラン、
馬が駆けていった。京都の市民が、何ごとがおこったか
わからず、ビックリした。(テレビもネットもない時代ですし!)
すごく、戦争というものの本質をとらえているじゃないですか。
頭でなく、心に、ズガンと伝わってきますよね。
バカラン、バカラン
なにしろ平安京で武士対武士の市街戦が行われるのは、
保元の乱がはじめてでした。
地方での戦はありました。また比叡山の僧兵が下りてきて
暴れて、武士が鎮圧に向かうということはありました。
しかし武士対武士の市街戦が、しかも
畏れ多くも王城たる平安京で行われる
なんてことは、保元の乱がはじめてだったんです。
794年に桓武天皇が都をお開きになってから
はじめてだったんです。
庶民の衝撃たるや、どれほどだったか!!
バカラン、バカラン、バカラン、バカラン、
この音に、庶民の衝撃も、
武士たちの息遣いも集約されている気がします。
なので私もバカラン、バカラン精神にのっとり、
講演会で喋る時は人物関係図を
ちまちま解説すること後回しにして、まずは、
バカラン、バカラン、バカラン、バカラン、
すると来場者の方々も、「え?何だろう」「何がはじまるの」
という感じで、身を乗り出して、
グッと興味をもってくださるじゃないですか!
うれしいですね。伝わってくるんですよ!
録音じゃなくて生ですから、
その感じは、ビリビリ伝わってきます!!
あ、今ノリがいいなとか、
興味を持ってくれてるなあとか!、
バカラン、バカラン、バカラン、バカラン、
清盛が甥で忠正が叔父で、義朝と為朝が兄弟で…
そんな話は、歴史好きの方以外は
ぜんぶ忘れてしまうと思います。
しかし、
バカラン、バカラン、バカラン、バカラン、
あの音は、保元の乱の本質を掴まえた、あの音は!きっと、
魂に刻み付けられたと、確信しています!
講演会の後、お客さんの一人と話が盛り上がり
飲みに行きました。
「いや〜バカラン、バカランよかったですね」
「やっぱりバカラン、バカランでしょ!」
「バカラン、バカランですよ。
もっと学校の授業とかでもバカラン、バカラン言わないと」
「ですよね〜学校でもバカラン、バカランいってほしいですよ」
バカラン、バカランいってるだけで
冷酒が三本カラになりました…。
バカラン、バカランはかくも好評でした。
身体感覚です。
バカラン、バカランは身体感覚。
歴史が、体にしみわたる感じ。
早朝の白河北殿にバカラン、バカランと押し寄せた平清盛軍。 その時、櫓の上にバーーンとあらわれたのは……

保元の乱 白河北殿の戦い
「我こそは、鎮西八郎為朝なりーーッ」
ヒュン、ヒュンヒュン
ズバァ、ぐわあ、ひいい
源為朝の放つ矢の前に、平清盛配下の侍たちは、
次々と討たれていきます!!
「ぐぬぬ…為朝恐るべし。退けっ、退けーーッ!!」
若き日の平清盛が撤退を命じると、長男の重盛が、
「父上ーッ!!何を弱気な。重盛は
刺しちがえてでも為朝を討ちまする!!」
バカラン、バカラン、バカラン、バカラン
「ああっ重盛!返せ!
返せというのがわからぬかーーッ!!」
双方、鬨の声を上げてくんずほぐれつ戦っているうちに、
はるか比叡山の山の端がしらじらと明るくなってきました…
…というように、
歴史を、まさにその場面に
立って、見ているような身体感覚。
これこそが、バカラン、バカラン精神です。
学校の授業でも、こういうのを聴きたかったなあと
しみじみ思います。誰と誰が親戚同士とか、
年号とか、ちまちました知識なんて、どうでもいいじゃないですか。
いや知識も大事ですよ。
でも知識は興味を持った先の話だと思うんですよね。
知識を覚えるのは後でいいと。
学校で、まだ何も知らない生徒に語るときは、
知識よりもまず身体感覚です。バカラン、バカランです。
私は今年の春、保元の乱の白河北殿の戦いが行われた
祇園を歩いてきました。疎水から引いた水路に満開の桜が
影を落として、すばらしかったです。
この水が琵琶湖までつながっていると思うと
感慨深いものがありました。
春の祇園〜保元の乱 白河北殿跡の近く
水路のほとりで絵を描く方。弁当を食べている休憩中の
警備員。昼寝中の猫。のんびりした春の祇園でした。
しかしここで昔、バカランバカランと軍馬が駆けあい
清盛が、為朝が、戦ったかと思うと、熱くこみあげるものが
ありました。
あなたもぜひ、バカランバカラン精神を胸に、
歴史の舞台をたずね、ロマンにひたってほしいと思います。
講演会で語った内容に図表等を付け加えたものを
CD-ROM版としても発売しております。
無料のサンプル音声も公開していますので、
ぜひ聴きにいらしてください。